ABEMA PRIME(2022年7月4日ON AIR)では、レギュラーの出演者たちは、向島にいるみくさんによるアナーキズムを、「ゆるふわアナーキズム」と命名し、人畜無害なものとして描いていた。
しかし、これが大きな間違いであって、「ゆるふわ」こそが、国家と資本によって形成されているこの世の「支配」を破壊する潜在力を持つ、ということはすぐにわかる。
みくさんは、尾道市の向島で「ゆるふわ」なドーナツ屋さんを営んでいるだけのように見える。だが、こういった活動が可能なのは、目に見えない小さなコミュニティがみくさんたちを支えているからである。そして、この基盤がかなり強靱なのは、彼の発言を聞けば明らかである。
この強靱な基盤を提供している小規模のコミュニティが、みくさんの説明する「ゆるふわ」なアナーキズムを成立させ、日々活性化させている。みくさんという個人だけに焦点を当てて理解しようとするのは大きな間違いである。
「ゆるふわ」は、資本と国家による「支配」の基盤となる価値観、思考や態度とは全く相容れない。そして「ゆるふわ」を支えるコミュニティは、日々その価値観を強化し、確信を深め、「もう一つの世界」を自分たちの日常の中に実現し続ける。これは、人畜無害なのではない。むしろ、資本と国家を破壊するポテンシャルがそこにあると理解しなければならないのである。
たとえば、1999年11月シアトルで何万もの人たちがWTO総会開催をさせないために路上に出たとき、スタバをはじめとするグローバル企業の店舗を破壊したアナーキストたちは、オレゴンのユージーンにコミュニティを作っていた若者たちであった。
高円寺の「素人の乱」も同様だが、小規模のコミュニティは対抗文化を作り出し、見えないネットワークでつながりながら、ひとたび行動を起こすと凄まじい破壊力と影響力を行使する。サパティスタ、ロジァヴアがそのさきにある。
「ゆるふわアナーキズム」こそ権力がいちばん恐れなければいけないものである。暴動や暗殺などよりも、権力が恐れ、警戒しなければならないのが、「ゆるふわ」なのである。
幸か不幸か、レギュラー出演者の誰もがそのことを指摘しなかった。これから10年間で、日本各地に「ゆるふわ」が増殖し、資本と国家による権力をむしばんでいくのがわかったときは、もう手遅れなのである。