2019年7月15日月曜日

乱狡太郎「偽書アナキズム・栗原本 その1(2)」 Fake Anarchism Book by Kurihara Yasushi :Part1 (2)

その1(1)のつづき
(2)内容に現れる偽書性
 さて、表紙だけで終わってるとすましたいとこだけど、内容に入る。
例えばエコロジーのくだりでは、

「自然とはなにか。プリウスか、それとも暴動か、こたえはいつもきまってらあ、あばれる力だ、暴動だ。将来を燃やせ、先駆けを燃やせ、燃やして、燃やして、燃やしつくせ。」(栗原『アナキズム』65頁)

  「プリウスミサイル」連続発射で、子どもが無残に轢死、上級国民が、栗原本の影響でやらかしたんかいなと、これは俺の妄想。ここで言っている「プリウス」とは、資本がエコを己の金儲けに利用しているというメタファー、この論法って実は珍しくはない、左翼が良く使う「共産主義化」の手口で、俺曰く、資本制先兵の「摘発」だ、「○○にはこんな資本の罠が仕掛けられている」てな具合。オルグなんかではこれが「罪悪感」と結びつけられる。
 似た例を紹介すると、矢部史郎は、著書『愛と暴力の現代思想』で、「くまのプーさん」のヤバさについて、元々「ディズニー=反共主義=敵」という理解もあり「視野の外」においていたが、矢部の妻は、子どものため意識的にディズニーのキャラクターを極力排除していたらしい、が、「いくら排除しても一つや二つは侵入してきてしまう。」「ディズニーのなかでも特にプーさんは、とてもじゃないがくい止められない」「この繁殖力がおそろしい」と嘆く。
 またちょっと遡ると連合赤軍のいわゆる総括リンチで殺害された赤軍派遠山美枝子は、革命左派の女性メンバーと比して明らかに戦士としての独立性、行動力にかけていることが、「彼女の服装や化粧や態度にハッキリ表れている」と批判され、「いわゆる女性らしさを“習慣化したブルジョワ的な女性の体質”とみなされ「根底的な変革」を求められていた。それがリンチの要因ともなった。(*1)
 このように、「くまのプーさん」「ブルジョワ的服装、化粧、態度」は、共産主義化に抗する「敵」すなわち資本制の文化/記号であり、同様に栗原の言う「プリウス」も資本主義がエコロジーを僭称する文化/記号として否定されているわけや。
 で、俺はようわからんけどなんで「プリウス」なんやと気になって調べてみた。プリウスは一台220万円から300万円以上もする車。プリウスの売れ筋はSシリーズというベーシックグレードが人気だそうで、それでも220万である。購買層は、50歳代以上が65%である。新型プリウスは、プリウスミサイルの時も話題になったが、高年齢層が支えている。年代別に見ると20代:5%、30代:12%、40代:18%となっている。男女比は9:1で圧倒的に男性である。「40歳代以上をオジサンとするならば、83%以上が対象。つまり、新型プリウスはオジサンもしくはお年寄りが好きなクルマということになる。」(*2)
  プリウスの購入動機であるが、「初期の受注に関しては、トヨタ車を保有している顧客からの代替が多い。もともと、高年齢層を多く顧客にもつトヨタなので、こういった年齢構成になるのはある程度納得できる」(同上)つまり、トヨタ車ファンによる買い替え需要だというのである。さらに「下取り車」の傾向から見てみると、やはり「トヨタ車からの代替が72%」対して「トヨタ車以外はわずか28%」つまり販売台数に陰りの見えている現在ではなく当時は、空前のプリウスブームという状況なのに、トヨタ車以外はわずか28%ということだから、「トヨタファン以外には人気がないのでは?と、感じてしまう数字でもある。」(同上)ここでも、プリウスのヘビーユーザーは、トヨタ車ファン,ということがわかる。
 ここで、2010年にネットエイジアリサーチ(株)が実施した、年齢20歳~59歳の「自宅に自分が運転する自動車がある」と答えた携帯電話ユーザー1000名へ試みた『「プリウス」と「インサイト」についての意識調査』(2010年4月9日)の結果を見て抜粋してみる。

□ネットエイジアリサーチ調査結果(抜粋)
1)「ハイブリッドカー」の保有者 3.6% … 回答者全員(1000名)
2)「ハイブリッドカー」への関心79.9%  …  ハイブリッドカー非保有者(964名)
3)「ハイブリッドカー」の購入意向あり、86.4% … ハイブリッドカー非保有者(964名)
4)「ハイブリッドカー」を購入したい理由、… 3)の回答者(833名)※複数回答
1.「燃費が良いから」… 83.0%
2.「地球環境にやさしいから」… 57.5% (女性66.7% 男性48.0%)
3.「税制の優遇が受けられるから」… 38.3%
4.「購入時に補助金が出るから」… 35.7%
5.「価格が安くなってきたから」… 31.8%

 この調査結果では、確かにプリウスを購入する動機としては、他の理由を圧して、「燃費が良いから」となっている。プリウスの燃費性能の優位性については、ユーザーのみならず当然専門家も認める所だ。「プリウスの2WD車の実燃費は25.63㎞/L、4WD車は23.53㎞/L。プリウスPHVの実燃費は28.76㎞/Lとなっています。カタログ燃費ほどの実燃費を期待してしまうとがっかりするかもしれませんが、それでも2WD車においては25㎞/Lを超えているので燃費はトップレベルといえるでしょう。さすがはプリウス、といったところです。」(*3)「いやぁよく走ります。本当によく走る。高速主体だと26キロだったが、帰京して街中主体で測り直したら28キロまで行った。…」(*4)
  つまりプリウスが売れているのは、ある程度金に余裕のある元々トヨタ車好きなユーザーが買う。その一番の動機は「燃費性能」、「少ないガソリンでたくさん走れます」という経済的合理性だ。結果として化石燃料の消費を少なくする観点からエコロジカルともいえるが、思想性で買ってるわけやない。車の購入者にとっての関心事はなんといってもランニングコストを低く抑えることだ。
  栗原は「プリウス」を敢えてイデオロギー化してみせたが、前述したようにそれは左翼的文脈の「摘発」と軌を一にするものである。矢部の「プーさん」論も同様である。資本制の先兵「プーさん」は、中国では、「丸っこくてふっくらして愛らしいプーさんの外見が、習近平国家主席に似ているとソーシャルメディアで評判になったため、検閲当局はプーさんの名前や画像の投稿をブロックしている。」(*5)つまり中国では、習近平批判のアイコンとして利用されている。
  またJ.T.ウィリアムズの『クマのプーさんの哲学』のように、哲学のキャラクターとして用いたり、またサンデル教授が「ハーバード白熱教室」のある回で、「アリストテレスの目的論的論法」を説明するのに「プーさん」を登場させている。またプーさんは西洋哲学のみならず東洋思想とも相性が良いらしく、ベンジャミン・ホフ、E・H・シェパードが『タオのプーさん』、『クマのプーさんの「のんびり」タオ』、など老荘思想本も出している。そうなると矢部の言う、「非常に有害と思う」、「非常に陰惨な印象」「僕がプーさんで連想するのは、こどもがぬいぐるみのように破壊される現場です」とはずいぶんちがうイメージで存在していることがわかる。
  今回の栗原のプリウス=エコ・シンボル化にも、既存左翼イデオロギーと類似した「摘発」がなされたといえるんとちゃうかと。

「やっぱプリウスでしょう、この車だったらいくらのっても大丈夫ですよ、地球にやさしいですよ、みんなの役にたってますよ、温暖化を解決するということは、プリウスを買うのとおなじことだァってね。」「ちょっと強調しておきたいのはね。日本の場合、マジでプリウスみたいなのにのっていれば温暖化を解消できるっておもってんじゃねえのかってことだ」(栗原『アナキズム』50頁)。

 そんなやつおらへんわ~」大木こだまが聞いたなら言うやろな。「プーさん」と同じく、前提となっているイデオロギー、個人的幻想が読み手に共有されなければ、かなり奇怪な言説であることがわかるかと思う(その1(3)につづく)。

【参考】
*1 坂口弘『続あさま山荘1972』彩流社、1995年、37~38頁
*2 「トヨタ新型プリウス トヨタファンのお年寄りに売れている? 」CAR-TOPICS 2009.7.18
*3 「プリウスの実燃費が知りたい!…」カルモマガジン2018.11.19
*4 「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」日経ビジネス 2016.7.11
*5 「中国検閲はなぜクマのプーさんを禁止したのか」BBC NEWS JAPAN 2017.7.18

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