2022年4月17日日曜日

ペーター・ノヴァク「”我々がいずれかの国家の側に立つ、などということはあり得ない”―ロシアとウクライナのアナーキストたち」(翻訳)Translated from Peter Nowak, '"Wir werden uns niemals auf die Seite eines Staattes stellen" Anarchist*innen in Russland und in der Ukraine'

 ペーター・ノヴァク「”我々がいずれかの国家の側に立つ、などということはあり得ない”―ロシアとウクライナのアナーキストたち」

アナーキズム運動内において、現在の戦争への態度は様々である。ペーター・ノヴァクは、この『草の根革命』紙に寄稿した記事の中で、そのなかのいくつかの見解を取り上げ、ロシアとウクライナのアナーキストたちのあいだで、部分的には対立する立場がある、という状況を明らかにしている。

 ロシアにおけるアナーキストたちにとってロシア軍の侵攻によって戦争がエスカレーションすることそのものは、驚くべきことでも何でもなかった。そもそも、政府に対するいかなる反対勢力も弾圧する、そのような抑圧的な資本主義体制に対して、ロシアのアナーキストたちは何年にもわたり戦ってきたのである。
 当然、アナーキストたちはこのような体制の中でもっとも弾圧を受けてきた。戦争開始とともに、弾圧はさらに厳しさを増した。これは、戦争に反対する旨のプラカードを掲げたという理由で逮捕されている人々の写真を見ればわかることである。もちろん、彼らの行動は偉大な市民的勇気から生まれたものである。
 ウクライナに対する侵攻後、法改正によりさらに厳罰化が進んだが、アナーキストによる様々なグループは抗議行動とデモを呼びかけた。
 モスクワのアナーキストのグループのなかで、長年にわたり活動してきたグループの一つ「フード・ノット・ボムズ」は、開戦と同時に、その宣言文の中で自身の見解を、次のように表明している。
 「我々が、どちらかの国家の側に立つ、などということはあり得ない、我々の旗の色は黒なのである。我々はいかなる国境に対しても、インチキ大統領連中に対しても敵対する。我々は戦争に反対し、市民の殺害に反対する」。この宣言文の中で彼らは、戦争開始とともにロシア国外に対して隠蔽されてしまった階級の分断についても言及している。「食事もできず住む場所もない人々がいる。それは資源が不足しているからではない、資源の配分が不公正だからである。だから、無数の豪邸を所有している連中がいる一方で、あばら屋にさえ住むことができない人々がいるのだ」。

ウクライナにおけるアナーキストたちの間の分断
 ウクライナでもアナーキズム運動は弾圧を受けてきた。しかしながら、ロシアやベラルーシほどではなかった。これらの国々で迫害を受けてきたアナーキズム的な思想を支持する人々は、ウクライナに逃れて亡命生活を送っている。加えて、アナーキズム的な傾向を持つ運動は、過去数年間で多様になってきた。
 Crimethincネットワークの分析によれば、すでに2014年には、マイダン抗議行動に際しての態度をめぐる議論が起きている。一部のアナーキストは、この行動に参加し、アナーキズム的な要素を付け加えようとしていたが、それに反対する人々もいた。抗議行動で活動的だった右翼の諸グループとともに抗議することを望まなかったからである。もちろん、抗議行動に参加した人々の中で、右翼は一握りの少数派に過ぎなかった。しかしながらこれに参加することを拒否したアナーキストたちは、マイダン事件にナショナリスティックな雰囲気があると考え、自分たちが、同じ場所でアジテーションを行うことは困難である、と判断したのである。

 このようにしてアナーキズム運動内部に生まれた分断は、それに続く数年間、修復されることはなかった。Crimethinkネットワークによれば、ロシアから来たアナーキストによる少人数のグループは、右翼たちの抗議行動に加わった。その理由は、彼らこそが、唯一の闘争の構造を発展させたからだ、というものであった。ウルトラ・ナショナリストの傾向がある右翼セクションは、2014年のマイダン事件の経過の中で形成され、国家機構と密接な関係を持ち、諸外国の極右勢力と連携した。
 他方、東ウクライナで活動するアナーキストによる少人数のグループもまた、いわゆる人民共和国に加わった。これはロシア国家に支援され、少なくとも当初は、東ウクライナ住民からも支持を得たものである。

「我々の住む街区の防衛の問題だ」
 ロシアの侵攻はウクライナのアナーキストにとっても転換点だった。それ以外の多くの人々と同様、3月初旬、ドイツに来たキエフの女性のアナーキストは、ベルリンのアウトノーメによる拠点で開催された集会で、ウクライナでは、今や問題は生きるか死ぬかであり、理論的な議論などしている場合ではない、と強調した。「我々は今、ウクライナに住む多くの人々とともに、私たちの住む町と街区を守らなければならないのだ」と彼女は強調し、さらに次のように述べた。国家の勝利のために献身することや、これ以上NATOを批判しない、といった立場をとることなどできない、と、このような先鋭化した戦争状態においてさえアナーキズム的な見解を持つ人々が強調するのであれば、それに対しては、次のように答えよう。そういった立場にウクライナのアナーキストは関心がないのだ、と。私たちにとって今重要なのは、侵略者に対して戦うことであり、彼らを撃退することなのである。ウクライナで徴兵忌避を広く呼びかける行動を支持する、という考え方に対しては、次のように反論しよう。実際には、ウクライナでは、多くの義勇兵が存在する、しかし、強制的にロシア軍との戦いに送り込まれる人などいてはならない、と。ただし、現実には、戦闘に向かわせるために、18歳以上の男性がウクライナから出国することがウクライナ政府によって禁じられている、という問題もある。
 ウクライナ危機に関しては、他の左翼運動内部での議論でも、侵略者に対する非暴力の抵抗という考え方は議論の対象になっていない。ウクライナのジャーナリストのアナスタシア・ティホミローヴァは、ドイツの雑誌『ジャングル・ワールド』に次のように書いている。シュトゥットゥガルトの左派運動「解放と平和」はインタビューの中で、ロシア軍がウクライナに砲撃を行っているときに「平和主義的なアドヴァイス」を行うことに反対の意を表明し、むしろ、NATOによる攻撃を支持した、と。ここからわかるのは、反権威主義的な左派の間でも、非暴力が、侵略者に対する無防備と降伏のことだ、と勘違いされている、という状況である。この問題を考える上で注目すべきは、ロシア軍に占領された都市の住民たちが、戦車の前で抗議行動を行い、戦車を取り囲み、一時的に中心部から撤退させた、といった、ここ数日の間に起きた出来事であろう。

*ドイツのアナーキズム紙『草の根革命』2022年4月(468)号、8頁掲載の記事より訳出。Translated from Peter Nowak, '"Wir werden uns niemals auf die Seite eines Staattes stellen" Anarchist*innen in Russland und in der Ukraine', in: Graswurzelrevolution, April 2022/ Nr.468, S.8.

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