2019年7月15日月曜日

乱狡太郎「偽書アナキズム 栗原本 その1(3)」 Fake Anarchism Book by Kurihara Yasushi: Part 1(3)

その1(2)の続き
(3)偽暴動論
 で、そのプリウスを選択しないとしたら何が選ばれるのか、栗原がすすめているのが「暴動」である。

 「ものすっごいスピードで、デシッ、デシッとハンマーを使って窓ガラスをぶちこわし、そこにひたすら石をなげこんでいく、投石につぐ投石、そしてさらなる投石だ。すると、どこからとなく火炎瓶がほうりこまれて、マックがメラメラと燃えはじめる。火を見た群衆はもうとまらない。火のついた猿、火のついた猿、黒いのがわけのわかんないことをさけびながら、ピョンピョンとびまわっている。すると、あたりからモクモクと煙がたちのぼってくるわけさ。そう、車やバイクにも火がはなたれたんだ。ウヒョーオーッ、ウヒョーオーーーッ!!」(栗原『アナキズム』4頁)

 この「暴動」の情景は栗原が、フランス、パリにおけるメーデーに突然黒いパーカーに覆面姿の一団が現れ、いきなりデモの先頭を取りマクドナルドに突っ込んだ場面を、友人からのメールに貼付されたURLで見たYoutubeの映像を記述したらしい。書体を変えた部分は、栗原の主観と思われる部分である。この本にはこのように随所に栗原の過剰演出が織り込まれている。
 栗原の述べているのは、2018年5月1日のフランス、パリのメーデーで、この日、行進が始まった30分後、「一般デモ隊に紛れ込んでいた『壊し屋casseur』たちが黒装束にヘルメット、覆面をし、デモ隊の先頭に集まったのです。その数は約1200人、最大でも600人と考えていた機動隊はただ様子を見守るばかり。橋を渡った彼らは、金槌や金属棒、発煙筒を出し、沿道の店や信号、広告塔などを次々に壊し始めました。機動隊が介入したのは破壊が進んでからなので、物的被害は甚大です。そのうちのひとつであるルノー車販売店は店舗が壊されただけでなく、展示していた車やバイクを歩道に出され、燃やされました。」(*6)
 配信されたメディアの記事、フランス滞在者によるレポートいくつかを当たってみたけど、明確にブラック・ブロックによるものとされている。なぜかアナーキズム研究家である栗原は集団の呼称を出していない。ブラック・ブロックは統率がとれていない集団という記述も見られるが、一方で警察が「よく組織されており敏捷で、逃げ足が速い。ジェスチャーで特殊なサインをし合って行動、破壊するや否やあとは跡形なく蒸発するプロ忍者」(*7)という指摘もある。
 また最近では、今年2月に、「黄色いベスト」のリーダー格の男女2人が接触を図り「共同戦線」を提案したが、ブラック・ブロック側も「目的は諸君と同じ」と受け入れたとのニュースもあった。(*8)
 俺は、破壊する対象がグローバリズムを象徴する店舗に限られていることや、リーダーが不在でも組織的に動けることから、明確な目標や思想性を共有する集団で、栗原の言う単なる「アンちゃん、ネエちゃん」の「火のついた猿」では全く違うように考える。
 確かに定型的な組織形態はないが、ネットによって日常的に情報は共有化されており、破壊目標の設定、装備、行動の手順、実施、撤収まできちんと運営されているのがうかがえる。
 しかも構成員たちは、インテリでそれぞれ個別に社会運動のメンバーであるとも言われている。ある意味「ブラック・ブロック」は、期間限定の「革命運動」の一種といえるかもしれない。
 つまり、栗原も本来は、栗原の暴動のモデルと異なるのを知っていたんだろうけど、自分の論に近づけるために呼称を伏せたと疑っている。
  ここで、栗原の暴動論を再度確認すると、

 「で、そういう自発性の暴走ってんだろうか、いちどあばれはじめた力ってのは、もうだれにもなんにも、そして自分にですら制御できない。だって、なんでそんなことやりはじめたのか、自分にですら制御できない。だってなんでそんなことをやりはじめたのか、自分にだってわけがわからないんだから、損も得もありゃしない。なんなら損しかありゃしない。どえれえやつらがあらわれたァ!まるで火のついた猿だ。やめられない、とまらない、テメエのことはテメエでやれ、ついでにテメエをふっとばしてやれ。やるならいましかねえ、いつだっていましかねえ。いまのあとには、いましかねえ。そしてさらなるいましかねえ。いま、いま、死んだつもりで生きてみやがれ、死んでからが勝負。やることなすこと根拠なし、はじまりのない生をいきていきたい。アナーキー!」(栗原『アナキズム』13頁)

 ここまでくると栗原の暴動論なるものが、ブラック・ブロックの実態と大きくかけ離れていることがさらに理解できるだろう。栗原本は全編こういう作りになっている。
 だいぶ長くなっちまったんで、このくらいにしておくが、次回は栗原の暴動論のネタ本を明らかにして、栗原本がアナーキズムとはちがうインチキ本、偽書であることをさらに明らかにする予定です(つづく)。

【参考】
*6「ブラック・ブロックに乗っ取られた今年のメーデーBlack Blocs」楽しい年金生活  Bons plans à Paris 2018.5.2
*7 プラド夏樹「黄色いベストと極左派ブラックブロックの危険な関係」YAHOO NEWS 2019.4.15
*8 山口昌子「黄色いベストとブラック・ブロックの危険な関係」RONZA 2019.3.22

0 件のコメント:

コメントを投稿